ここは博麗神社、幻想郷の境である。  昨年よりもはるかに暖かい冬で、如月を迎えようという頃合いだが、  雪が降ることもなかった。  だがそれでも冬は冬。  霊夢はかじかむ手に息を吹きかけながら、お茶を飲むなどしていた。 ---------   霊夢  「風が吹くと寒いわね」   紫   「それなら中に入ってしまえばいいのに」  足音も立てず現れたすきま妖怪は無視して霊夢は独り言を続けた。   霊夢  「お茶もすぐに冷めちゃうし」   紫   「ねえ、霊夢」  向こうも独り言など華麗に無視して呼びかけてくる。  内心霊夢はため息をついた。呼びかけられては無視できない。   霊夢  「何よ」   紫   「ここの敷地を少し借りたいのだけど、いいわよね」   霊夢  「……何をするつもりなの?」   紫   「明後日の正午。少し色々と持ち込むわ」   霊夢  「だから何をするの?」   紫   「それじゃ、また」   霊夢  「質問に答えなさいよ」  紫は半分どこかに移動しながら、一応の返答は返してきた。   紫   「ライブを演ろうと思ってるの」 ---------   魔理沙 「それでこんな寒い中集められたわけか」   妖夢  「今年は暖かい冬じゃないですか」   咲夜  「あなたたちが春を集めてないからかもね」  集まった面々は口々に寒いだのなんだのと愚痴をこぼしている。  堪えかねて霊夢は叫んだ。   霊夢  「誰も集まれなんて言ってないでしょ! 何でこんなに来るの!?」   レミリア「あのすきま妖怪の式神が招待状を寄越したからよ」   咲夜  「妹様やパチュリー様は欠席だけどね」   幽々子 「ここでライブをした後は宴会らしいから」   妖夢  「そうでしたっけ……」   永琳  「ウドンゲがどうしても来たいって言うから仕方なく……」   鈴仙  「そんなこと言ってないですよ!?」  またもや騒がしくなった頃、そそくさと紫の式――とその式が姿を現した。   藍   「ああ、どうも。今日はお集まりいただいて……」   魔理沙 「なんだ、その丸い箱どもは」   藍   「これはドラムといって、叩くと音が鳴る――」   アリス 「大抵のものは叩けば音が鳴るわよ」   藍   「とにかく紫様が来たらすぐに始めます。橙、手伝ってくれ」  にわかに期待が高まる中、八雲紫は未だ神社の敷地内にはいなかった。  鳥居をくぐって演奏しながらの登場の予定だからだ。  寒空の下、幻想郷にギターの音色が響こうとしている――